■ スポーツ損傷
①「スポーツ損傷」=「スポーツ傷害」+「スポーツ障害」
スポーツによって生じる痛みやケガ(スポーツ損傷)は大きく2つに分けることができます。
1つ目は、「スポーツ傷害」です。これは1回の瞬間的な外力が加わって受傷する骨折、脱臼、打撲、捻挫、創傷などの、いわゆる“ケガ”のことを指します。
2つ目は、「スポーツ障害」です。一定の動作を繰り返すことで慢性的に起こるものでoveruse syndrome(使いすぎ症候群)とも言われます。ケガと言うほどの大きな力が働いていない中で徐々に痛くなってきたような場合で、微少な外傷の繰り返しによる慢性的な機能障害の事を指します。過度な練習などで起こることが多いのですが、技術の未熟さや筋力、体力不足、柔軟性の低下などが原因のことも多くみられます。
「スポーツ障害」が潜在しており、これが原因となって「スポーツ傷害」を生じるというような、両者に密接な関連のあることもあります。
②成長期の「スポーツ障害」について
成長期における「スポーツ障害」に関しては、選手本人の意思やチーム事情により”練習を休めない””休みたくない”等の理由で、痛みなどの症状があっても練習を休まず続けてしまい、重傷となってから病院へ受診される患者様が多く見られます。また「成長痛」として片付けられ、放置されていることもあります。
まず、成長期における身体の特徴を理解しておく必要があります。
成長期における身体の特徴としては「骨の強度が弱い」「成長軟骨が存在する」「柔軟性の低下」などが挙げられます。成長期の身体はまだ発育段階ですので大人と違い筋骨格は弱く、「障害」が起きやすい状態なのです。
「柔軟性の低下」に関して、成長期では骨の伸びるスピードに比べて筋肉の伸びるスピードは遅く、相対的に筋肉が常に引っ張られピンと伸びた状態になっていますので、筋肉は固くなり、柔軟性が低下します(タイトネス)。そのため筋肉や筋肉が骨にくっつく部分(付着部)にかかる負担が大きくなり、大きな外力がかからなくても微少な外傷がくり返され「スポーツ障害」が生じやすい状態になっています。
成長のスピードは個人個人によって異なりますので、個々の柔軟性をチェック(メディカルチェック)することが必要です。チーム全体で行うストレッチのみでなく、個人個人に必要なストレッチメニューがあることを知っておくことが大切です。
③「スポーツ障害」は予防・早期発見が大切
学校部活ではプレーできる期間が限られていますので、治療のためにスポーツ活動を制限しなければならない場合は本人・ご両親・チームにとって精神的なストレスがかかってしまいます。しかし「スポーツ障害」の中には、不可逆的で将来にわたって痛みが残ってしまう可能性のある病変もありますので、場合によっては長期にわたってスポーツ活動を制限しなければならないことがあります。
何よりも予防が大切です。以下の点につき確認しましょう。
- 成長期の身体は発育段階で「スポーツ障害」が生じやすい時期であることを理解しましょう。
- 成長期は体力・持久力・柔軟性などに個人差が大きいため、個々の身体の状態を確認(メディカルチェックなど)した上で、チーム全体で行うストレッチのみでなく、個人個人に必要なストレッチメニューを毎日行って「障害」の起こりにくい身体作りを行いましょう。
もちろん医学的なことだけでなく、監督・コーチ・トレーナーと相談して
- 正しい動作(フォームなど)・身体の使い方(ステップ・フットワークなど)を習得しましょう。
- 自分に合った道具(シューズやラケットなど)を使用しましょう。
- 練習量や試合の日程が過密になりすぎないよう調整しましょう。
- 十分な睡眠をとりましょう。
- 栄養のバランスのとれた食事をとりましょう。
「スポーツ障害」は早期に発見し治療をすれば、スポーツを制限する期間は短くてすむことが多く、早期発見が重要です。現在ではレントゲンだけでなく、CT・MRI・エコーなど多くの検査機器があり早期に発見できるようになりました。痛みなどがある場合は早めに整形外科専門医を受診することが必要です。
早期発見することによりスポーツ活動制限を必要最小限にとどめ、休んでいる間にもパフォーマンスを低下させないためのストレッチや筋力トレーニングメニューを整形外科医師・リハビリスタッフ・トレーナーと相談することが大切です。